6月21日(月)
「。。。ぁぁ、うぁ〜っす」
「・・・◎×oiuo!!`@っす・・・」
とにかくしつこい、とうい印象しかない雨の中、なんとか学校に着いた僕はいつものように友人達と朝の挨拶を交わし、グショグショにな
った制服の上着を脱いだ。MDウォークマンやら財布やら家の鍵やら、スナフキンのフィギアやらその他etcやらがポケットの中でぶつかり合
いジャラガサと音を立てる。中にはたまらず外へ飛び出してくる者もいる。
「ふぅ・・・やれやれ。ポン太君さ、俺とお前の仲じゃないか。愛想尽かして出ていくなんて酷いよ。君には内ポケットの一番いいとこ
ろをあてがってるだろ?しかも一人部屋だっていうのに。。。」
我先にと上着から抜け出ていったキーホールダーのぽん太君をすくい上げながらとっびきり哀しそうな表情をして僕は語りかけた。銅製で
身長5p、厚み5mm、重さは程良い感じの狸のポン太君。十年来のつきあいである彼(名前から推測するに多分雄だろう)も、ひどく哀しそう
な表情をして僕を見返した。でも、その不満ありげな態度は相変わらずだった。
「仕方ないよなぁ、毎日こう雨ばかりだと。銅だし。ものすごい鉄臭いし。」
とりあえずポン太君の境遇をそれとなく嘆いてあげる。普段はあまり他人の事には立ち入らない僕だが、時には対象の境遇に心から同情す
ることも大事だと思う。今そう思った。それに、もし自分の体が銅だったらと想像すると、酷く同情せずにはいられない。これは本心だ。
だって、多分お風呂には入れない。入るとしても一番最後だろう。
「あんた銅なんだから、みんなが入った後にしてよね?錆は出るわ匂いはキツいわ風呂桶は傷つけるわ。ねぇ、あんたいつ出ていくの?
いつまでもこの家にいる気じゃないわよね?」
とかいびられるんだ。妹からも
「勝手に私の部屋入ったでしょ!?歩いた後がフローリングの床に残ってるんだよ!それに服漁らないでくれる??錆が付くの!錆よ錆
!赤黒いわ!テメーの体切り刻んで鮮血で赤黒く染めてやろうか!?この役立たずが!鉄臭いんだよ!」
とか言われるんだ。なんだか想像してたらムカついてきたな。大体テメーが産んだんだろうがコラ。錆がでるだと?テメェらが入った後に
はばっちり湯船に垢が浮いてんだよ。錆は沈むだろ!浮いてんだよ垢!湯船に浸かってたらプカプカプカプカのど元にまとわりつくんだよ
垢が!大体な、俺には毛だって無いんだ。縮れ毛処理しろよ人間!ブチ殺すぞ。テメー等の恥毛なんてよほどの変態でも無い限り見たくな
いわ!吐くぞ!錆吐き散らすぞ!この不細工が!それにな、お前、妹!最近調子のってるだろ?香水とか付けて気取ってんじゃねーぞ便所
の芳香剤だろそれ死ね!お前の部屋には入ったよ!ええ入りましたよファブリーズ借りただけじゃアホ!服なんか触ってないわ死ね!いや
触ったかもしれないけど制服だけだぞ。そこの学校いいんだよ制服。友達にも沢山ファンがいる。いや、フェチと言うべきか。だからお前
じゃねーんだお前じゃ!強いて言うならデザイナーが神。もしくは生徒募集の公告にでてるモデル、もしくはクラスで上から3番目までの可
愛い娘。もしくはその制服の生地と歴史と社会と俺等男共のつくりだす愛と浪漫の冒険活劇(脳内)が重要なんであってお前じゃないんだお
前等じゃないんだよこの田舎者がっっ!!。
ふぅぅぅ・・・。
こんなにも哀しい怒りをいつも抱いていたなんてつゆ知らず、僕はポン太君にずいぶんと酷いことしたんじゃないだろうか。どうだろう
か。自分で自分に問いかけてみる。だが答えなどない。なぜなら、問うべき相手は僕ではない。それ以前にそれは問いではない。問うこと
は罪となり、問うためにはまず償わなければならない類のものだから。
「小難しいことはわからないな。わからない。わからないことは、必要ないよ」
声が、聞こえた。様な気がした。でもそれも小難しく無いかい?さっぱり分からないぞ?
・・・・・
こうして、様々な方向に話題が飛び、時に本物の感情が浮かび上がり、幻聴が聞こえた気がした気分に無理矢理なってみたりしつつ脱い
だ上着を椅子にかける。どの学校にもあるごく一般的な木製の机と椅子は、どれも変わりなく湿り気を帯びて、古い木製家具が濡れたとき
に発する、あの独特の匂いを放っている。
あらゆるものは水分を含むと匂いを放つトリビア。髪の毛などはシャンプーの匂いがして大変良い。しかし、くたびれたサラリーマンの
スーツの様な毛並みの野良犬などは、カラカラに乾いていなければ、お前引き籠もってエロゲでオナニー三昧で親に食わせてもらってても
う三十路越えてて人生終わってるくせにたまに本屋とか来るなよわかるんだよ!どんなに離れていても同じ店内ならお前がいること分かる
んだよ臭いから!というのと同じ類の殺意を抱いてしまう。しかし、幸いなことにうちのクラスにそのような殺人考察対象はいない。透け
たワイシャツの下にブラジャーらしきものが見え隠れするクラスメイトならいるが、我がクラスは男子のみのクラスのはずなので、そのよ
うなことはありえないと、普通なら思う。そしてまた、自分の勘違いかどうかを確かめるような愚かな行為はしない。してはならない。断
じて。体と心の性は別なんだと、そう授業で習った。その授業を担当した先生はゲイで、入学式の時、僕のななめ後ろの席にいた筋肉質で
少し幼い顔立ちをした子に手を出し学校を去った。二人は今では一緒に暮らしているらしい。
なんの話だっけ?